昔からオレとギアッチョは一緒だった。
 身寄りのないオレ達は数人の仲間と一緒に盗みを繰り返し、なんとか食料や服を確保し生活していた。
 仲間達といると安心出来るし、みんなで盗んだ食料を分け合って食べるのも結構楽しかった。
 ガキだったオレはずっとそんな暮らしが続けば良いと思っていた。

 だがそんな日々にも終わりが来ていた。

 ある日、オレとギアッチョは二人でパン屋へ盗みに入った。
 その店には店主一人しかおらず、しかもそいつはラジオを聞くのに夢中で俺達には目もくれない。
 今日は簡単だな…オレ達はそう思いながら目の前にあるパンを何個か盗り、店の外へ出た。

 「君達…お金は?」
 いきなり後ろから声をかけられ、オレ達は驚きながら後ろを振り向いた。
 のんきにラジオを聞いていたはずの店主がこっちへ向かって来ていた。
 ヤツはニヤついた顔でオレ達を見ると、エプロンの中からナイフを取り出して、こちらに先端を向けた。

 肩から背中にかけて気持ち悪い寒気に襲われた。

 「やばい逃げるぞ!」
 オレはとにかくヤツから離れないと殺されると思い、ギアッチョの腕を掴んで走り出した。

    

 だけど、その店主の足は今まで追いかけて来たのろまなヤツらと違ってとても速かった。
 オレ達はあっという間に追いつかれてしまった。

 店主は気持ち悪い顔で笑いながらオレを殴り倒すと、足で踏みながらオレの体を地面に押さえ付けた。

    

 「よしよし、いい子だからじっとしててね…」
 その言葉が聞こえた後、オレはすぐに気を失ってしまった。
 蹴られたからか殴られたからかは分からない。


 次に目が覚めた時、オレは信じられない光景を目の当たりにした。
 気絶する前までオレを踏んでいた店主が、地面にねっころがって首から血を流して死んでいたのだ。

 誰が殺したんだ、一体何が起こったんだ、ギアッチョは…

 「ギ…ギアッチョ…?」
 死んだ店主の近くに、ギアッチョが体を震わせながら俯せの状態で倒れていた。

    

 「おい!ギアッチョ!!」
 オレは無事だったのかと喜びながらギアッチョの方へ向かい、倒れた体を起こしてあげると強く抱きしめた。
 「大丈夫か!?何もされなかったか!?」
 そう質問するオレを見上げると、ギアッチョは一瞬ニコりと笑い、目を閉じた。

 「どうした…?」
 ギアッチョの腕を掴むと、服の袖が少しぬるっとしていた。
 何だろと思いながら、掴んだ腕に目をやった。


    

 「あっ…なっ何で…?嘘だ…うっ嘘だろ、なあ何でだよ!?」

 ギアッチョの手がない。いや親指はあるけど、人差し指から小指がない。
 手の半分から上が切断されていた。

 「あ、あぁ、違う、何でなんだ、ごめん、オレ…ごめん、どうしよ…オレが、違う、いやそうだ…何で…」

 どうすればいいかが分からない。
 ギアッチョが想像出来ないぐらい辛い目にあっているのに何もしてあげられない。

 昔のオレには、目の前の事態を収拾することが出来なかった。



 オレ達の楽しい日々はその日で終わってしまった。仲間達とももう会えない。

 オレはたまたま通りかかった男に助けを求めた。その男は組織の人間だった。

 切断されたギアッチョの手は、すぐに手術を施された。切断されてから時間があまり経っていなかったし、
 切断部も綺麗な方で、切断された上半分の手も無事に見つかったから、手の再接着はうまくいった。


 だけど、ギアッチョと組織に入ってからも、大人になった今でも、あの時の後悔は大きく残っている。

 子供の頃、大切な親友に殺人を犯させてしまったこと、

 再接着出来たものの手を切断させてしまったこと、

 自分が彼を守れなかったこと、

 すべてを後悔している。



 だけど、ギアッチョは

 「あの時の殺人は今思えばいい練習だったんだよ…手もくっついたしな」
 「だからいつまでも気にすんなって!お前らしくねーぞ」

 そう言って抱きしめてくれた。
 優しく笑いかけてくれた。
 オレは涙が止まらなかった。


 「ありがとう」